猫が最も発症しやすい下部尿路疾患の種類と原因、キャットフードについて
「下部尿路」とは膀胱から尿道までの器官を示します。この区間で生じる病気すべてを「下部尿路疾患」と言い、膀胱炎や結石も当てはまります。ちなみに現在は「FLUTD」の呼び名が主流となっていますが、以前は「FUS」とも呼ばれていました。下部尿路疾患は腎臓疾患と同様に猫がかかりやすい病気の一つです。
下部尿路疾患の中でも発症しやすいのが「尿路結石」です。日々の食事から得るミネラルバランスが大きく影響するため、結石対策を目的とした療法食がたくさん売られています。しかしこの療法食、選び方を一歩間違えるとさらなる結石を引き起こす危険性があるのです。
尿路結石の正しい知識に加え、療法食を与えるときの注意点や、再発を防ぐためのポイント、予防改善するための方法を併せて説明します。
本ページの目次
尿路結石の症状
尿路結石になると尿道閉塞・尿毒症・急性腎不全などのリスクが高くなります。とくに尿毒症は命に関わる危険な病気です。
しかし猫は痛みを感じると本能的に隠そうとするため、病状が悪化して初めて飼い主が気付くケースが少なくありません。初期段階での些細な変化を見逃さず、適切な治療を受けさせることが第一です。
尿に血が混じる
正常な猫の尿は黄色ですが、血が混じると赤っぽくなります。打撲や腎不全などさまざまな原因が挙げられますが、膀胱炎・結石によるものが最も多いとされています。
猫砂がキラキラしている
トイレの砂がラメのように光っていたら、それも尿路結石のサインです。太陽光や明かりに照らすと確認しやすくなるので、トイレ掃除の際にチェックしてみてください。
トイレの回数が増えた
排尿量が減るため頻繁にトイレに行くようになります。あきらかに回数が増えているなら、何かしらの不調を抱えているサインです。1日に4回以上なら注意した方がいいでしょう。
いつもと違う行動をする
落ち着きがなくなる、何か訴えるように鳴く、人目に付かない場所に引きこもる、急に粗相するようになったなど、普段と異なる行動にも警戒しましょう。下腹部を触られて痛がる場合は、かなり進行している可能性があります。
尿路結石の種類と原因(メカニズム)
猫がなりやすい結石は2種類あり、尿中のPh値で判別します。pHとは酸性・アルカリ性の度合いを数値化したもので「水素イオン指数」ともいいます。0~14の数値で表されており、pH値が7よりも小さければ酸性、大きければアルカリ性です。猫にとって理想の尿pHは、6~6.5前後の弱酸性となります。
結石の種類は主に2つあり、一つは尿がアルカリ性に傾くときできる結石「ストルバイト」、もう一つは酸性に傾くときできる結石「シュウ酸カルシウム」です。このような結石は尿に含まれるマグネシウム、カルシウム、リンなどのミネラル成分が増えたり、尿がアルカリ性または酸性に傾くなどphのバランスが崩れたりする時にできます。またあまり水を飲まない猫の習性から尿が濃くなり、それが結石を生成する原因にもなっています。
ストルバイト
猫の結石でもっとも多いのが「ストルバイト結石」です。別名「リン酸アンモニウムマグネシウム」とも呼び、その名の通り「リン」と「アンモニウム」が「マグネシウム」を中心に結晶化したものです。尿のpHがアルカリ性になると形成されやすくなり、マグネシウムの過剰摂取や、飲水量が少ないことが主な原因となります。
7歳未満の若い成猫、とくに尿道の狭いオス猫に発生しやすいのが特徴です。この結石はpHが弱酸性になると溶けるため、一般的には食事療法が治療のメインとなります。
シュウ酸カルシウム
尿pHの酸性度が強くなると発症しやすいのが「シュウ酸カルシウム結石」で、7歳以上のシニア猫に多くみられます。水分不足が引き金になる点はストルバイトと同じですが、このタイプの結石は尿中の「シュウ酸」と「カルシウム」濃度が高くなることが影響しています。
ただシュウ酸とカルシウムの摂取量を減らせばいい、ということでもありません。たとえばカルシウムは、ビタミンDの過剰摂取やリンの欠乏により尿に排出されやすくなります。
対してシュウ酸は、ビタミンB6やマグネシウムが不足することで蓄積されます。そのためマグネシウムを制限した「ストルバイト用療法食」が発症を招くケースもあるのです。一度結晶化すると食事療法では溶解しないので、手術で除去する必要があります。
自己判断で療法食を与えない
軽度のストルバイト結石であれば、マグネシウム・カルシウム・リンといったミネラルの量を調整した療法食を用いることで改善が期待できます。「プリスクリプション・ダイエット」「ロイヤルカナン」「ドクターズケア」などのブランドの療法食が代表的です。最近ではストルバイトとシュウ酸カルシウム、その両方に対応したものも数多く登場しています。ネットやペットショップでも気軽に手に入るようになり、一昔前と比べて身近な存在になりました。
ただし自己判断で療法食を安易に利用するのは、非常にリスキーな行為です。療法食とは、特定の病気に合わせた栄養バランスで製造されており、獣医師指導のもとで与えることが前提となっています。誤った使用方法は効き目を薄くするだけでなく、他の病気を併発する恐れもあるのです。
また尿pHの数値によっては、別の療法食に切り替えることもあります。定期的な検査と診察、そして医師による適切なアドバイスがあってこそ、療法食本来の効果が発揮できるのです。
「配慮」や「ケア」に惑わされない
療法食と混同しやすいのが、「下部尿路疾患に配慮」や「尿路結石ケア」を謳うキャットフードです。「療法食」の記載がないものは「健康維持」を目的としており、通常食と同じ扱いになります。療法食のように保証成分値を細かく明記していないものが多く、栄養成分の配合量にも大きな違いがあります。ミネラルバランスを整えることが治療の要となるため、これらのフードは食事療法には利用できません。
着色料や防腐剤などの添加物が入っているものであれば、再発をもたらすことも充分考えられます。完治後に与えるときも「配慮」や「ケア」などの言葉を鵜呑みにせず、必ず医師に相談して判断を仰ぐするようにしましょう。
療法食の上手な与え方
治療中は療法食以外のフードやおやつはNGです。とはいえ療法食は味気ないものですから、中にはまったく食べなくなる猫もいます。猫にとって絶食は命に関わるため、どうにかして食べさせなければなりません。
まずは医師に状況を説明したうえで、いつものフードに少しずつ混ぜて慣らしてみましょう。時間はかかるかもしれませんが、急に切り替えるよりも食べやすくなります。
プリスクリプション・ダイエットなどのウェットタイプの療法食を活用してみるのも一つの手段です。嗜好性が高いものが多く、水分補給にもなるのでおすすめです。
また食後は胃酸が出て尿がアルカリ性に傾きやすくなります。食事の回数を減らす、置きエサをやめるなど、与え方をいつもと変えるだけでもストルバイト対策になるでしょう。
トイレ環境を整えることで改善を図る
食事の他に気をつけるべきポイントとして、トイレ環境の重要性も忘れてはいけません。
こまめに掃除する
トイレが汚いと我慢することがあるため、いつも清潔にしておきましょう。多頭飼いの場合、トイレの数は猫よりも1つ多く用意してあげてください。
落ち着ける場所に置く
人の出入りが多い場所や、常に物音がして騒がしい場所は相応しくありません。室内の静かなポジションを選んで、リラックスできる環境を整えてあげましょう。
猫砂の素材を確認する
固まるタイプの猫砂に使用されることの多い「珪藻土(けいそうど)」は、マグネシウムやカルシウムなどのミネラルを含んでいます。長期的な使用により、結石だけでなく肺疾患にもつながりかねません。
確認しやすいトイレに変える
血尿や結晶をチェックしやすいシステムトイレに変えてみるのも方法です。pHによって色が変わるペットシーツを利用すれば、日常的にpH管理できます。
生活全体から見直すことが大切
中硬水の地域もありますが、日本の水はほぼ軟水です。普段与える飲み水は、水道水で充分でしょう。防災用に備えるのであれば硬水ではなく、軟水のミネラルウォーターを用意してください。
またミネラル分の調整が難しい手作りご飯にも注意しましょう。ペット栄養学の専門知識は必須となるので、安易に手を出すのは大変危険です。
下部尿路疾患は再発することが多く、尿路結石も慢性化しやすい病気と言われています。悪循環を断ち切るにはフードだけで対処するのではなく、生活や環境を含めた根本的な改善が必要なのです。
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